目の前のニーズを追うほど、会社の存在意義が見えなくなる
- Yutaka Sato

- 6月14日
- 読了時間: 4分

市場の変化が速いほど、企業は顧客の声に素早く反応することを求められます。
今、強く困っている人は誰か。
どんな課題なら、すぐにお金を払ってでも解決したいと思うのか。
どの商品なら、今の市場で求められるのか。
こうした「今すぐ解決したいニーズ」を捉えることは、事業を成長させるうえでとても大切です。
けれど、そのニーズを追うたびに、自分たちが何者なのかまで変えてしまうと、少しずつ危うさが生まれます。
ニーズは変わっても、存在意義まで変える必要はない
本来、事業には変わるものと、変わらないものがあります。
商品やサービス、機能、届け方は、市場に合わせて変えていく必要があります。
一方で、
「自分たちは、何のためにこの事業をしているのか」
「どんな未来をつくりたいのか」
「何を約束する会社なのか」
という存在意義は、簡単に変えるものではありません。
存在意義が先にあり、その実現方法として商品やサービスが変わっていく。
この順番であれば、市場が変化しても、会社の価値は積み上がっていきます。
けれど、目の前のニーズを起点にするたびに、存在意義まで説明し直していると、市場から見た会社の姿は少しずつ曖昧になります。
昨日まで伝えていた価値と、今日伝えている価値がつながらない。
何を得意とする会社なのか、外から見ても分かりにくい。
社内でも、何を基準に判断すればよいのか分からなくなる。
顧客の声に応えているはずなのに、なぜか会社の価値が伝わりにくくなっていく。
そんな状態が起きます。
資金があると、判断を先延ばしできてしまう
私は以前、オリーブオイルの輸入販売事業をしていました。
事業を続けるかどうかを考えたとき、私には明確な判断の節目がありました。
次の商品を輸入するのか。
それとも、次の輸入を行わず、事業を終えるのか。
輸入すれば、新たな在庫と資金負担を抱えます。
輸入しなければ、事業は閉じる方向へ進みます。
続けたい気持ちはありました。
長く関わってきたお客様や生産者への想いもありました。
それでも、次の投資をする合理性があるのかを考え、決算までに事業を終える判断をしました。
撤退を決めることは、誰にとっても得意なことではありません。
積み重ねてきた時間や想いがあるほど、「もう少し続ければ変わるのではないか」と考えたくなります。
そして、資金に余裕があれば、判断をさらに先へ延ばすことができます。
もう一度試せる。
次の施策ならうまくいくかもしれない。
市場が追いつくまで待てるかもしれない。
資金は、本来、仮説を検証するための時間を与えてくれるものです。
けれど、撤退や見直しの基準が決まっていなければ、資金があることで、判断が遅れてしまう場合もあります。
「まだ続けられること」と、
「続ける意味があること」は、同じではありません。
判断が遅れる会社には、責任感の強い人がいる
判断が遅れる企業を見ると、経営陣に決断力がないと感じる人もいるかもしれません。
けれど、実際には逆の場合もあります。
顧客を守りたい。
社員の雇用を守りたい。
これまで投資してくれた人の期待に応えたい。
簡単に諦めたくない。
そうした責任感が強いほど、撤退や縮小の判断は難しくなります。
だからこそ、経営判断には、感情とは別に確認できる基準が必要です。
どの状態になったら、事業の前提を見直すのか。
どの仮説が成立しなければ、次の投資をしないのか。
何を失う前に、方向を変えるのか。
状況が悪くなってから考えるのではなく、まだ冷静に考えられる時期に決めておく。
それが、事業と人を守ることにつながります。
WHYは、変化を止めるものではない
存在意義を明確にすることは、変化しない会社をつくることではありません。
むしろ、変化するために必要なものです。
自分たちが何のために存在しているのかが分かっていれば、商品やサービスを変えても、進む方向は見失いません。
どのニーズを追うのか。
どのニーズは、自分たちが追わないのか。
何を変え、何を守るのか。
その判断がしやすくなります。
市場の変化が速い時代ほど、目の前のニーズへ反応する力は必要です。
けれど同時に、自分たちの存在意義へ戻る力も必要です。
WHYは、変化を妨げるものではありません。
変化の中で、自分たちを見失わないための判断軸なのだと思います。



