企業理念は、「言葉」ではなく「根拠」で決まる
- Yutaka Sato

- 3 日前
- 読了時間: 7分

企業理念やVision・Mission・Valueを掲げている会社は少なくありません。
「誠実であること」
「挑戦し続けること」
「お客様を第一に考えること」
「社会に貢献すること」
どれも大切な言葉です。
けれど、立派な理念を掲げているにもかかわらず、現場ではその理念がほとんど意識されていない会社もあります。
採用ページには魅力的な理念が書かれている。
社内にもValueが掲示されている。
それでも、社員からすると、
「実際の会社は、書いてあることと少し違う」
と感じてしまう。
なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。
私は、企業理念を考えるときに大切なのは、
どんな言葉を掲げるかだけではなく、なぜその言葉を掲げるのかという「根拠」を明確にすること
だと考えています。
企業理念は、きれいな言葉をつくることが目的ではありません。
日々の経営判断や行動に一貫性をつくり、顧客や社員に対して「私たちは、こういう会社である」と約束するためのものだからです
「誠実」「挑戦」「成長」だけでは、判断基準になりにくい
たとえば、企業のValueとして「誠実」という言葉を掲げたとします。
もちろん、「誠実」は大切な価値観です。
ただ、それだけでは実際の経営判断に使うには少し抽象的です。
なぜ、自分たちは誠実であることを大切にするのか。
どんな経験から、その価値観が生まれたのか。
何を守るために、誠実でありたいのか。
そして、その価値観を守るために、何を「しない」と決めるのか。
ここまで掘り下げていくと、同じ「誠実」という言葉でも、その会社にとっての意味が見えてきます。
これは「挑戦」「成長」「感謝」といった言葉でも同じです。
大切なのは、言葉そのものの美しさではありません。
その言葉を選ぶに至った背景に、どんな経験と判断があるのか。
そこに、その会社ならではの価値観が表れます。
企業理念の根拠を、経営者の価値観まで遡って考える
では、企業として大切にする価値観は、どこから生まれるのでしょうか。
私は、
経営者個人の深層価値観
と、
ビジネスで重視している価値観
の両方を見ることが大切だと考えています。
経営者も、一人の人間です。
これまでの人生の中で、嬉しかったこともあれば、悔しかったこともある。
何かを選んでよかった経験もあれば、「あのとき、こうすればよかった」と感じた経験もあるでしょう。
そうした経験の積み重ねから、
「これは大切にしたい」
「これは絶対にしたくない」
という価値観が少しずつ形づくられていきます。
一方で、事業を続ける中でも価値観は育ちます。
どんなお客様と仕事をしたいのか。
どんな商品やサービスを届けたいのか。
利益と顧客利益がぶつかったとき、何を優先するのか。
品質とスピードなら、どちらを選ぶのか。
こうした実際の経営判断にも、その人がビジネスで何を大切にしているのかが表れています。
だから私は、
経営者個人の深層価値観
×
ビジネスで重視する価値観
↓
企業として大切にする価値観
↓
Vision・Mission・Value
という順番で考えます。
経営者の想いを、そのままきれいな言葉に置き換えるのではありません。
個人として大切にしていることと、事業として大切にしてきたこと。
その両方を整理して、
「だから、私たちはこの理念を掲げる」
という根拠を明確にしていくのです。
根拠があるから、理念が「判断軸」になる
理念の根拠が明確になると、その言葉は単なるスローガンではなくなります。
たとえば、新しい事業を始めるかどうか迷ったとき。
大きな売上が期待できる取引の話が来たとき。
採用する人を決めるとき。
クレームへの対応方針を考えるとき。
短期的な利益と、長期的な信頼のどちらを優先するのか迷ったとき。
企業として何を大切にするのかが明確であれば、
「この判断は、私たちらしいだろうか」
と立ち返ることができます。
反対に、理念が言葉だけで存在していると、判断に迷ったときに使えません。
「誠実である」
と掲げていても、
何をもって誠実とするのか。
何を守るための誠実さなのか。
どこから先は、自分たちの誠実さに反するのか。
その根拠が共有されていなければ、人によって解釈が変わります。
理念を決めること以上に、
なぜ、その理念なのかを説明できること。
私は、その状態をつくることが重要なのだと思っています。
企業理念は、顧客と社員への「約束」になる
そして、企業理念にはもう一つ大切な役割があります。
それは、約束です。
企業が理念を外に向けて発信すると、それは顧客に対する約束になります。
同時に、社員に対しても、
「この会社は何を大切にするのか」
を示す約束になります。
ここで大切なのは、顧客向けと社員向けで、まったく同じ言葉を使うことではありません。
相手が違えば、伝わりやすい表現は変わって当然です。
ただし、
表現は変わっても、約束の根拠と核は変えない。
ここに一貫性が必要です。
たとえば、顧客には「お客様第一」と伝えているのに、社員には利益だけを優先した判断を求めている。
採用時には「挑戦を尊重する会社です」と伝えているのに、実際には失敗を許さない。
社外には「誠実さ」を掲げながら、社内では誠実さよりも合理性だけが優先される。
こうした状態が続けば、社員はやがて、
「社外で言っていることと、実際の会社は違う」
と感じるようになります。
理念そのものが間違っているわけではありません。
問題なのは、掲げている約束と、日々の体験が一致していないことです。
言葉は相手に合わせても、約束の核は変えない
顧客に見えている会社。
社員から見えている会社。
経営者自身が考えている会社。
この三つが完全に同じ景色になることはないと思います。
立場が違う以上、見えるものも違います。
だからこそ必要なのは、すべてを同じ言葉で統一することではなく、
それぞれに届ける言葉の奥に、共通する根拠を持つことです。
顧客への約束。
社員への約束。
そして、社会への約束。
それぞれの表現は違っていても、
「なぜ、それを大切にするのか」
という根っこが同じであれば、会社の行動には一貫性が生まれやすくなります。
そして、その一貫性が積み重なった先に、
「あの会社は、言っていることとやっていることが一致している」
という信頼が生まれていくのだと思います。
会社の価値観を決めただけでは、まだ完成しない
ただし、企業として大切にする価値観やVMVを定義できれば、それですべてが終わるわけではありません。
もう一つ、大切な問いが残ります。
それは、
会社の価値観と、社員一人ひとりの価値観やキャリアを、どこでつなぐのか。
という問いです。
社員にも、それぞれの人生があります。
大切にしている価値観も違えば、強みも違う。
目指しているキャリアも、仕事に求めている意味も違います。
会社が一方的に、
「私たちは、この価値観を大切にします」
と伝えるだけでは、社員自身の仕事との接点までは生まれません。
企業として大切にする価値観。
社員自身が大切にしている価値観。
社員の強みやキャリア。
そして、目の前の日々の仕事。
それらがどこで重なるのか。
その接点が見つかったとき、企業理念は初めて、社員にとっても「自分の仕事と関係のあるもの」になっていくのだと思います。
企業理念をつくるなら、「なぜ?」まで言葉にする
企業理念を考えるとき、どうしても目に見える言葉に意識が向きます。
Visionをどう表現するか。
Missionをどうまとめるか。
Valueを何個にするか。
もちろん、それらも大切です。
でも、その前に考えてみてほしい問いがあります。
なぜ、その理念を大切にするのでしょうか。
どんな経験から、その考えは生まれたのでしょうか。
何を守るために、その価値観を掲げるのでしょうか。
そして、その価値観を守るために、何をしないのでしょうか。
この問いに答えられるようになると、企業理念は少しずつ「飾る言葉」ではなくなっていきます。
迷ったときに戻ることのできる判断軸になり、
顧客や社員に対して交わす約束になり、
日々の行動を通して、その会社が何者なのかを示すものになっていく。
だから私は、
企業理念は、「言葉」ではなく「根拠」で決まる。
そう考えています。



